調達ナレッジ

「調達」の語源とトレンドに見る複雑性の一考察

2021.05.31
調達コラム

いきなりですが、「調達」という言葉の語源をご存知でしょうか?
最近、「調達」と「購買」は何が違うのか?という質問を弊社の新入社員から受けたのですが、調達業界に身を置く身として恥ずかしながら、明確な説明ができなかったというきっかけがあり、改めて「調達」という言葉を少し調べてみました。

調達とは「調え(ととのえ)、達す」こと

ネット調べですが、中国最古の字書『説文解字(せつもんかいじ)』によると、「調」という漢字は、「互いがほどよくつりあう、調和する」ことを意味しており、簡単に言えば「ととのえる」ことを指すそうです。調味、調和、調剤、調節など、よく見ると「ととのえる」の意で日頃使っている漢字があることに改めて気づかされます。また、ととのえるために様子を測ることから、「しらべる」といった意味も派生したそうです。

「達」についても同様に調べましたが、親羊から子羊が勢いよく滑るように生まれる姿を指す「羍(たつ)」という字に、道を行く意味の「辶(しんにょう)」を加え、滞りなく場所・目的地に行くことを「達」と書くことになったそうです。達成や到達など、直感的にはこちらの方が語源のまま使われていて、イメージしやすいかもしれませんね。

調達とは「調え(ととのえ)、達す」こと

以上の「調え(ととのえ)、達す」を組み合わせたものが、「調達」の語の成り立ちということになります。興味深いこととしては、漢字の生まれた中国においては、「調達」という言葉は使われておらず(※)、あくまで日本語として作られたということで、少なくとも日本の16世紀頃には現在と同様、物や資金を購入したり準備したりする意味で使われていたそうです。(※調達にあたる中国語は供应、办置、筹措などがあるそうです)

一方、ビジネス実務的の場で「調達」の類語として用いられる「購買」という言葉は、「貝」が含まれていることからわかるように、語源からして金銭の取引で物を買うという意味の言葉となります。言葉の成り立ちからすると「調達」は「購買」と比べた時に、単純にモノを買うだけでなく「調え(ととのえ)」のエッセンスが加わっているのと、「調え(ととのえ)」から「達す」まで、という複雑なプロセスの視点が包含された言葉であることがわかります。

「調」=「S2C」、「達」=「P2P」

調達に関連する仕事をされている方であれば、S2CとP2Pという用語を、少なからずどこかで聞いた機会があるかもしれません。近年、日本企業の調達業界には、このS2CとP2Pという概念が欧米から持ち込まれています。

  • S2C = Source to Contract ・・・ ソーシング~契約(サプライヤを探し交渉し条件をまとめ、契約を結ぶこと)
  • P2P = Purchase to Pay ・・・ 注文~支払(注文書を発行し納入を促し、費用を支払うこと)

日本では従来、一人の調達担当者が、頭からお尻まですべて担うことが一般的な業務カルチャーであり、それによって多くの調達組織において、業務非効率性や、専門性が育たないという課題が上がっていました。一方、欧米を中心としたグローバルでは、業務の複雑化やその機能や専門性の個別化が進んだことに対応し、S2CとP2Pを分けることが業務の一般的な考え方の土台になっています。

「調」=「S2C」、「達」=「P2P」

なぜこのS2CとP2Pの話を持ち出したかというと、学術的な裏付けがあるわけでもなく妄想の域を出ない話ですが、先ほどの漢字の語源の話題に戻り、「調」=S2C、「達」=P2Pとすると、なんとなくハマる気がしませんか?

この漢字を定めた日本の先人たちは、「調達」の本質を、”調え(ととのえ)=取引における相互の条件を整理し、時には交渉し、合意を形成すること”、と ”達す=調えた条件に沿って、滞りがないように手続きを履行し、モノやサービスを届ける/得ること” のその二つの側面を併せ持つ言葉として用いていたのでは?もっと言えば、S2CとP2Pの概念を、その昔から理解していたのでは?とついつい想像してしまう次第です。

「調達」という1つのワードを考察してみて、その内側には、モノを買うという一瞬の行為ではない、多くのことを想起させる、味わい深さとでもいうべき複雑性が内包されていることがお分かりいただけたかと思います。

今、調達は一層複雑性を増している

さて、最近弊社として「調達」に関するサービスをご提供する中では、業務の効率化・高度化、そのための調達組織改革や人材教育といったテーマの比重と緊急性が高まっており、調達トレンドの大きな変化を感じております。

その変化とは、「調達環境や業務の更なる複雑化」です。

ここ何年も繰り返しのように、社会や経済はより一層複雑化する、ということが言われて久しいですが、近年の調達業務は日本企業の発展やグローバル化に伴い、外部リソースの活用やグローバル調達など取組みのレベルにおいても当たり前の水準が大きく変化してきました。しかしそれだけでなく、それらを過去のものとするかのような、更なる変化、複雑化の渦中にあります。「モノ」から「コト」へのシフト、急速なデジタル技術の革新やサブスクやシェアリングなどデジタル経済の浸透、グローバルでの企業買収やプロダクト開発、外部企業との新たな関係構築の必要など、調達業務はそのダイナミックな影響をもろに大きく受けて、複雑化しています。

例えば製造業バイヤーのスキルで言えば、製造現場や部品に対する知識や目利き力だけでなく、技術やグローバル企業の動向、財務や企業価値に対する知識や目利き力が求められるのがグローバルの当たり前になっています。

今、調達は一層複雑性を増している

「調え(ととのえ)」~「達す」という本質は変わらないものの、今の時代において調達のミッションを果たすためにはこれまでと同じやり方では通用しなくなっていることは、これを読んで頂いている皆様にも同感を頂けることかと考えます。単なるモノ買いの在り方から脱却し、”買い方”を変えていくという必要性に迫られているのが、多くの日本企業の調達部門の姿だと思います。裏を返せば、競争力や差別化の源泉に直結するという点で、企業活動における調達業務(バイヤー)の重要性は、これまで以上に高まっているとも言えます。

今回のコラムでは、調達という言葉の源流に見る味わい深い複雑性と、そのトレンドに見る悩ましき複雑性について書かせていただきました。「調え(ととのえ)」「達す」、その本質を押さえながら、変化を見極め対応してゆくことこそが、日本の調達組織、バイヤーに強く求められると弊社は考えます。

・・・いかがでしたでしょうか?
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また、今回のコラムで取り上げたS2CとP2Pを始めとして、調達について深く学びたいお客様に対しては研修プログラムをご準備しています。
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